柴田民雄議員の議案質疑(2018年11月28日)

障害者の皆さんの思いにこたえるよう、障害者差別解消推進条例にそった施策の推進を
                    柴田民雄 議員

条例の目的は差別行為や差別意識を根絶させること
【柴田議員】2013年に制定された国の障害者差別解消法、2015年に制定された愛知県障害者差別解消条例に続き、本市においてもやっと差別解消推進条例が制定される段階を迎えられたことを喜ぶとともに、その過程で多くの当事者の皆さんのお力をお借りしてきたことに対して感謝を申し上げたいと思います。
 この第1条(目的)に示されている「障害の有無にかかわらず、誰もが人格と個性を尊重され、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会」という社会像は、まさにその通りの社会をぜひ実現したいし、そのために共にがんばりたいと思うものです。
 しかし現実には、社会的障壁も多く存在しており、合理的配慮の欠如や、不当な差別的扱いも多く残っています。また、障害の有無によらず一切の暴力行為も根絶させられるべきものですが、とりわけ障害に対する無理解や差別意識からくる、しょうがい児・者への虐待行為なども、教育機関や医療機関など閉塞的な状況であるほどに、根絶することは決して容易いことではないように見えます。
 そこで伺います。この条例の目的として実現を目指す社会では、障害者に対する差別行為を含めて、それらの根底にある差別意識を根絶させることを目的としていると考えてよろしいでしょうか。

障害の有無に関わらず、誰もが人格と個性を尊重され、共に暮らせる社会を目指す(健康福祉局長)
【健康福祉局長】これまでも、障害者権利条約、障害者基本法、障害者差別解消法等の趣旨に沿った取り組みを進め、 「障害のある人もない人もお互いに人格と個性を尊重し合いながら共に生きる地域社会」の実現に努めてきました。
 一方で、今なお、障害や障害者に対する誤解や偏見があり、周囲の理解が不十分なことにより、障害者の自立や社会参加が妨げられているという現状があります。
 この条例では、市、事業者及び市民における障害や障害者に対する正しい知識や理解を深め、一体となって、障害を理由とする差別の解消の推進に取り組むことで、障害の有無に関わらず、誰もが人格と個性を尊重され、住み慣れた地域で安心して共に暮らせる社会の実現を目的としている。

条例は実効性のある意識啓発策を要請している
【柴田議員】本条例を制定するにあたって、この条例の理念と仕組みに基づいて、率先垂範の観点から、本市の施策のなかで、障害者差別を行わない、しょうがい児・者に対する虐待を行わないという、強い姿勢を示す必要があろうと思います。
 ところが、本市では近年、差別を助長するような事件が起こっています。
 その一つが、天白養護学校で起こった障害児に対する虐待事件です。
 今後、本条例を制定し、施行してゆくなかで、差別解消の意識啓発を行っていく見本となる必要があります。
 そこで伺います。本条例案第20条(啓発等)で、「全ての人が相互理解を深めることができる機会及び情報の提供を行うものとする」としていますが、このようなケースに対して、たとえ学校であろうと例外なく、しょうがい児本人や保護者・家族などの不安が払しょくされる、実効性のある意識啓発策を示し取り組むことを要請しているという考え方でよろしいですか。

障害を理由とする差別の解消の推進に市は率先して取り組むべき(健康福祉局長)
【健康福祉局長】実効性のある意識啓発策障害者に対する虐待や差別の背景には、障害や障害者に対する誤解や偏見、理解の不足があることが考えられる。その解消のためには、正しい知識や理解を深めていくことが、非常に重要なものです。今後は、条例に関して幅広く広報啓発を進めることで、条例の趣旨及び理念の浸透を図っていきたい。
 加えて、障害を理由とする差別の解消の推進に率先して取り組むべきと考えており、市職員も、なお一層障害や障害者に対する理解を深め、職員対応要領に則った適切な対応が図れるよう、研修等の充実を図っていく。

天守閣へのエレベーター不設置方針は、条例に照らし是正されるべき
【柴田議員】もう一つの問題が、天守閣へのエレベーター不設置問題です。
 NPO障害者インターナショナル日本会議の皆さんは、5月の本市会議長に対する申入れの中で、「スプリンクラー」「屋内の照明」「館内アナウンス設備」など例をあげ「多くの人が利用するものは史実に忠実ではなくても設置するのに、障害者や高齢者等が必要なエレベーターは史実に忠実という名のもとに設置しない。これは障害者への差別です。」と訴え、条約が「新規の施設は誰もが利用できるユニバーサルデザインにしなければならないとしています。」と、この件が、障害者権利条約に違反していると指摘しています。
 また、新聞報道によれば、車いす利用の弁護士・東(ひがし)俊(とし)祐(ひろ)さんは「名古屋市の方針は合理的配慮以前の問題です。現在の名古屋城にはエレベーターがあるのに、それを壊してまで、障害者が上れない城をわざわざ再建しようというのですから。これは差別解消法が禁じる直接差別。障害を理由にした『不当な差別的取り扱い』にあたると考えます」と述べ、障害者差別解消法に違反すると指摘しています。
 本条例は、障害者権利条約に基づいて作られた障害者差別解消法に対し、より一層推進する立場で作成されているはずであり、法律で禁じているのに条例で例外を認めるものではないはずです。
 そこで伺います。「不特定多数の者の利用に供される建物」に対して、障害者の皆さんがエレベーター設置を求めているのに、設置しないまま工事を認めることは、本条例案基本理念、不当な差別的取り扱いの禁止義務規定、合理的配慮の提供義務規定に照らして、是正が求められるものなのではありませんか。見解を伺います。

バリアフリー環境の整備は重要だが、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供の規定から是正が求められるものではない(健康福祉局長)
【健康福祉局長】本条例では、障害の有無にかかわらず、誰もが等しく基本的人権を生まれながらに有する個人として尊重され、地域で自立した生活を営む権利が保障されることを前提として、あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること等を、障害を理由とする差別の解消を推進するための基本理念として第3条に掲げている。
 この基本理念に基づき、条例第7条では、本市及び事業者が施設や設備の整備を始めとする必要な環境の整備に努めなければならないと規定している。不特定多数の者に供される建物のバリアフリー環境の整備は、この環境の整備にあたるものであり、バリアフリー法等の既存の法令における義務付けの対象となることはあるが、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供の規定に照らし是正が求められるものではない。
 しかし、合理的配慮を的確に行うためには、環境の整備を進めることは重要であり、条例の理念及び規定について、幅広く広報啓発を進め、理解の浸透を図ることで、必要な環境の整備が進むよう努めたい。

「すべての“ひと”や“まち”が段差や壁をなくすために柔軟に変容していく」(河村市長)という考えに従い、今後名古屋市が作ってゆく建物も柔軟に変えていくべき
【柴田議員】市長は提案理由説明の中で、「例えばアメリカでは、世界に先駆けて障害を理由とする雇用差別を禁止し、障がいの有無にかかわらず働くチャンスは平等であることが大前提となっております」と述べています。また「障がいのある方が“障がい”を感じるかどうかは、社会の側の問題であって、行政、企業、学校、地域コミュニティをはじめ、すべての“ひと”や“まち”が段差や壁をなくすために柔軟に変容していくことが重要でしょう」とも述べています。
 その通りです。
 そこで市長に伺います。おっしゃる通り、今後名古屋市が作ってゆく建物も、この考えに従って、柔軟に変えてゆくんですよね。

過度の負担とならないような合理的配慮という規定がある(河村市長)
【河村市長】提案理由説明で述べたことはそのままです。局長もいいましたように、法律はちゃんと条文を持ってまして、過度の負担とならないような合理的配慮をすること、またそのような環境を整備することを規定しており、そういう精神で今後やっていくということです。

個人の違いが、社会参加への障害とはならず、個性として尊重されるよう社会が変容すべき(意見)
【柴田議員】過度の負担かどうかは、これから作る物を設計する段階で、まだ十分検討する余地があるのに、ことを強引に推し進める理由にはならないと思います。
 繰り返しになりますが、本条例案第1条(目的)に示されている「障害の有無にかかわらず、誰もが人格と個性を尊重され、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会」という社会像は、まさにその通りの社会をぜひ実現したいし、そのために共にがんばりたいと思うものです。
 市長の提案理由説明にある通り、障害を障害たらしめているのは社会の側の問題であり、障害者本人に障害があるのではありません。あるのは一人一人の違いだけです。一人一人の違いが社会参加への障害にならなくなるだけでなく、その違いが個性として尊重されるようになるまで、社会の側が変容してゆくことを、この条例案は求めているのだと思います。
 その観点に立って考えれば、先ほどの健康福祉局長の答弁の、バリアフリー法等の既存の法令における義務付けの対象となるという答弁は重要です。法令違反の可能性のある建物を、本市の条例案で是正を求めることができないということで、市民の納得が得られるのでしょうか。引き続き委員会での議案審査で継続してまいります。
 この条例案は、条文を見れば、障害者の皆さんの願いに応える、よいものだと思います。
 しかし、提案者の市長の姿勢はどうでしょうか。「まず隗より始めよ」という言葉を市長にお贈りして、議案質疑を終わります。

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