2025年6月定例会

田口一登議員の個人質問①(6月20日)基本報酬引き下げられた訪問介護事業所に市の独自支援を

【田口一登議員】

 昨年度、政府が訪問介護の基本報酬を引き下げたことで、ホームヘルパーなどの不足と事業所の閉鎖が進んでおり、地方では、訪問介護事業所がゼロという自治体が増えています。

 市内の介護事業所の経営状況はどうなっているのか。日本共産党市議団は先月から訪問介護事業所および居宅介護支援事業所を対象にアンケート調査を実施しました。パネルをご覧ください。お手元にも配布させていただいています。

 名古屋市内では訪問介護事業所の数は増加していますが、約千か所ある事業所のうち、開設時期が5年以内という新しい事業所が約4割を占めており、しかも、この5年間に開設した事業所のうち15%がすでに廃業しています。

 訪問介護事業所では、職員の充足状況について、「深刻な不足状況にある」との回答が約3割。「充足している」と回答した事業所は5.2%にすぎず、ほとんどの事業所がヘルパー不足に直面していることが明らかになりました。職員が「不足」および「充足しているが綱渡り」と回答した事業所にたいして、どんな影響があるのか尋ねたところ、「職員の負担増」が66%、「新規受け入れの制限」が60%、「現状のサービス量の制限」が47%となっています。ヘルパーさんなどに負担を強いてもなお、訪問介護の依頼を受けられないという、高齢者の尊厳ある暮らしにかかわる重大な問題が起きているのではないでしょうか。

 アンケートでは事業所から次のような切実な声が寄せられています。「ただでさえ高くない報酬なのに、下げられたのは残念。昨年、閉鎖するか代表等と話をし、周りの事業所がなくなっていく中で、少しでも地域に貢献できるようにと、管理者等の給与を減らして現場に回すことで、何とか踏ん張っています」「処遇改善加算があっても、基本報酬を上げてもらわなければ運営は厳しくなる」。廃業しても新規参入があり、全体の事業所の数が減っていなければよいのではという考え方にたいして、「事業所が積み上げてきたノウハウや、そこで働く職員のキャリアややる気が廃業により振り出しに戻ることは多大な損失だと思います」との意見を寄せた事業所もありました。

 健康福祉局長、市内の訪問介護事業所のこうした厳しい現状をどのように受け止めておられますか。認識を伺います。

【山田健康福祉局長】

 訪問介護事業所は、ここ数年の傾向といたしまして、廃止数はほぼ横ばいで推移しておりますが、新規指定数は毎年度廃止数を上回っているところでございます。

 令和6年度中には、51か所の訪問介護事業所が廃止されましたが、主な廃止理由といたしましては、約半数が入員不足と経営難であり、訪問介護事業所の経営状況は厳しい状況にあるものと認識しております。

 在宅介護の利用者の方々が、継続してサービス提供を受けるうえで、訪問介護事業所の安定的運営は必要不可欠であり、訪問介護事業所の厳しい経営状況は課題であるものと認識しております。

【田口一登議員】

 居宅介護支援事業所はどうでしょうか。配布資料の裏面をご覧ください。約8割の事業所でケアマネージャーが「不足」あるいは「綱渡り」状況となっています。アンケートに寄せられた声では、「ケアマネ不足の中では、(委託料が安い)要支援者を受け入れできません。認定をもらったのにお気の毒と思います」「ケアマネ不足は解消されず、近い将来、介護を受けられない方が多くなる可能性があります」など、ケアプラン作成の受け入れを抑制せざるをえない現状が綴られています。

 私は、アンケート調査を通じて、介護の基盤崩壊といっていい厳しい現状を再認識しました。それではどうやってこの危機を打開するのか。根本は国に責任があります。

 政府が引き下げた訪問介護の基本報酬を早急に元の水準に戻すことは当然必要です。しかし、介護報酬を引き上げると、保険料や利用料にはね返ります。保険料・利用料の負担増にならないようにしながら、ホームヘルパーやケアマネージャーなど介護職の賃上げを進め、介護事業所の経営を安定させるために、日本共産党は介護保険の国庫負担割合を10%引き上げて、1.3兆円の財源を確保することを提案しています。

 健康福祉局長にお尋ねします。国に対して訪問介護の基本報酬を早急に元の水準に戻すこと、介護保険の国庫負担割合を引き上げることを求めるべきではありませんか。

【山田健康福祉局長】

 また、介護給付費の財源に占める国費負担割合の引き上げにつきましても、同様に大都市民生主管局長会議等を通じ、国に対して要望しているところでございます。

 今後も、介護保険制度の持続的で安定的な連営を図るために、機会をとらえまして、引き続き国に要望してまいりたいと考えております。

【田口一登議員】

 訪問介護事業所にたいして独自の支援を行う自治体が生まれています。東京都世田谷区は昨年度、高齢者・障害者施設等への緊急安定経営事業者支援給付金を支給しました。これは、政府による報酬改定の不足分を補い、区民に必要な福祉サービスの事業継続を支えるためのものであり、訪問介護事業所については1か所あたり88万円を支給しています。世田谷区の保坂展人(ほさかのぶと)市長は、給付金の支給にあたって記者会見で次のように述べています。

 「高齢者の訪問介護は、2~3%引き下げられてしまいました。理由としては、例えばサービス付高齢者住宅など、高齢者が集合的にお住まいの場合、訪問の負担が小さく利益率が高いためということのようです。確かに、大手事業者にはそのように利益率が高いところもあるかもしれませんが、介護する家庭を1軒1軒回っているという事業所はやはり大変です。経営危機や事業所閉鎖という事態が起きています。区も例外ではありません」

 こういう認識に立つならば、本市でも、訪問介護の基本報酬の引き下げによる減収分の補てんといった支援が必要ではないでしょうか。そこで健康福祉局長にお尋ねします。報酬引き下げで苦境に陥っている訪問介護事業所にたいして、本市でも特別の支援を行う考えはありませんか。

【山田健康福祉局長】

 基本報酬の引き下げにかかる支援につきましては、国の責任において対応すべきものと考えておりますが、本市におきましては、物価高騰の影響を受けている介護保険事業所の負担を軽減し、安定的なサービス提供を支援するため、令和4年度から継続して、市独自で物価高騰対策支援金を支給しているところでございます。今後も、介護保険事業所が安定的にサービス提供できるよう、適切な支援を実施してまいりたいと考えております。

【田口一登議員】

 私たち市議団のアンケートでは、居宅介護支援事業所からはケアマネージャーの5年ごとの更新研修について不満の声が多数寄せられました。「更新研修にかかる費用と時間の多さが業務の負担になり、その間は新規利用者の受付をストップしてしまうこともある」「研修費用が高い。日数・時間が長い。これでは〝やりたい〟〝続けたい〟という気が下がる」などであります。

 本市では、介護事業所の職員の資格取得等に係る費用を助成する福祉人材育成支援助成事業の対象にケアマネージャーの研修費用も加えていますが、助成金額は事業所が負担した経費の4分の3で上限10万円です。全国にはケアマネージャーの研修に特化した助成制度を設けている自治体が少なからずあり、川崎市など全額助成している自治体もあります。

 ケアマネージャーの更新のための研修は、居宅介護支援事業所の存立にとって必須であることから、更新研修費用の助成については、特別に位置づけ、助成金額の引き上げなど拡充する必要があるのではないでしょうか。

【山田健康福祉局長】

 本市におきましては、平成24年度から、介護保険事業所の従業者の人材確保、キャリアアップを支援することを目的としまして、「名古屋市福祉人材育成支援助成事業」を実施しており、ケアマネージャーの更新研修も助成の対象としているところでございます。

 また、国の検討会では、ケアマネージャー業務の整理による負担軽減や、受講者の負担軽減を図るための法定研修の見直しなどの方向性が示されているところです。

 こうした国の動きも注視しつつ、「名古屋市福祉人材育成支援助成事業」を引き続き制度周知に努めながら実施することで、ケアマネージャーを含めた、介護事業所の従業者の人材確保、キャリアアップの支援に努めてまいりたいと考えております。

【田口一登議員】

 私は天白区内の訪問介護事業所を訪ねて、直接話を伺いました。ヘルパーの管理者の方は、「『担当のヘルパーがやめたから』とか、『事業所が閉鎖したので』という理由で新規の依頼もあるが、ヘルパーが確保できないため断ることも少なくない」と話していました。人材不足は深刻であります。

 本市が実施している光熱費やガソリン代の支援金は、物価高騰対策としては評価しますが、訪問介護はそもそも基本となる報酬が引き下げられているのです。ですから、私たちが実施したアンケートでも、「燃料費の支援など助かりますが、基本報酬が上がらないことが、従業員の給与を上げられない要因になっている」との声が寄せられています。

 健康福祉局長、訪問介護の基本報酬については、国に対して改善を要望するだけですか。基本報酬引き下げにともなう訪問介護事業所の減収にたいする市独自の支援が必要ではありませんか。お答えください。

【山田健康福祉局長】

 基本報酬の引き下げへの対応でございますが、繰り返しとはなりますが、介護報酬の設定は、介護保険法に基づく法制度の枠組みの中で、国の責任において対応すべきものと考えております。訪問介護事業所が持続して運営できる報酬水準とするよう、大都市民生主管局長会議等を通じ、国に要望しているところでございます。

【田口一登議員】

 国への要望はですね、今回の訪問介護の基本報酬の引き下げは、昨年度、今年度、来年度の3年間です。今、困っているわけですから、次の報酬改定を待つのではなく、早急に基本報酬は元の水準に戻してほしいと要望をしてほしいのです。

 基本報酬の引き下げによる減収分を補助する支援金を支給している新潟県村上市の高橋市長は、次のように語っています。「支援にあたっては国が減らした介護報酬を自治体が上乗せしていいのか、考えました。だけど学校給食や子ども医療費は独自に応援していますね。それと同じだと決断しました」。

 本市もこういう立場に立って、危機に陥っている訪問介護事業所への特別の支援を検討していただきたい。以上で質問を終わります。

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