2008年2月定例会 個人質問 山口きよあき議員(3月6日)

教育の機会均等の確保について―教育扶助の副教材費の未支給問題


山口議員

生活保護費の中の副教材費を未支給にしたのはなぜか

【山口議員】
通告にしたがい、順次質問します。

格差と貧困の広がりが大きな社会問題になっていますが、教育現場でも事態は深刻です。市長は「真に援助が必要な市民には生活保護がある」と、ことあるごとに述べていますが、その生活保護で支給されるべきものが、実はきちんと支給されずにいたことが明らかになりました。

小中学校で教科書に準じて使われる副教材費です。生活保護で教育扶助を受けている家庭には、この副教材費が実費支給されます。保護者から申請が出され、学校長が教材必要証明書を発行し、福祉事務所が支給する、仕組みです。

副教材とは、小学校では「音楽ノート」や「漢字や計算のドリル」などで、全市・全学年の平均で今年度2,846円。中学校では「国語や理科の便覧」、「歴史や公民の資料集」などほぼ全教科で使われており、全市全学年平均で今年度4,560円です。

副教材の選定は学校ごとで行ない、教育委員会へ届け出ます。学校で全員が使うので、無償の教科書に準じて、生活保護でも実費支給となっています。

ところが私が調べたところ、12月末の時点で、生活保護受給中の小中学生あわせて1962人中、わずか102人にしか支給されていません。該当者のわずか5%です。遡って調べてみると、2006年度は20人、05年度は18人、04年度も37人にしか支給されておらず、未支給額は、4年間だけで2千万円をこえます。

どうしたことか、とたずねてみると「そんな仕組みは知らなかった」「人手不足でそこまで気が回らず、保護者に制度のことを伝えていなかった」「親からの申請もないので学校からは声をかけなかった」という返事です。

たしかに福祉事務所のケースワーカーは国基準の1.3倍、一人当たり104件ものケースを担当し、超多忙。学校の教職員の忙さもよくわかります。でもそれでは済まされません。

そこでまず健康福祉局長にうかがいます。

生活保護法にもとづき、本来、支給されるべき副教材費は、何人分、いくらなのか、保護者の過剰な負担はなかったのか、いったい何時から未支給が続いていたのか?実態を明らかにし、過去に遡って未支給分を支給すべきです。この問題の原因と責任をどう考えているのか、まずうかがいます。

申し訳なかった。今年度分は直ちに支給する(局長)

【健康福祉局長】
小中学校で使用する副教材の経費は、生活保護における教育扶助の中の「教材代」として支給でき、被保護者から、学校長による使用教材の証明書を添付して福祉事務所へ申請することとなっており、申請いただいた場合は、もれなく支給を行っている。

平成19年度における「教材代」の支給実績は102件、43万6千円、平成19年7月1日現在の教育扶助の対象である小中学生、計1,962人と比較し、5.2%の低い支給率となっている。仮に、教育扶助の対象である小中学生全員分の「教材代」の支給申請があった場合、副教材費の平均額をもとに計算いたしますと、約690万円の費用を支給することになります。

申請が少なかった背景としては、福祉事務所による、被保護者への制度の周知や申請の勧奨・指導が十分でなかったこと、また、福祉事務所から各小中学校への教材の使用状況などについての確認が十分でなかったことなどが挙げられます。

「教材代」が未申請のまま、学校へ副教材費を納付された被保護者の方は、結果として、生活費の中でやりくりをするというご負担をおかけすることになり、誠に申し訳なく思っております。

教育扶助は、義務教育を受ける権利を保障するものであり、適正な支給のため、事務の改善を検討している。過去へ遡及しての支給は、生活保護が、現在お困りの状況に対応する制度であることから困難ですが、平成19年度は、今年度必要な需要として、速やかに、もれなく支給できるよう事務を進めます。

なお、平成20年度以降は、教育委員会と連携して、職権での支給ができる方策を検討します。引き続き福祉事務所での制度案内を徹底してまいります。

教育現場ではきちんと配慮しなかったのか

【山口議員】
ことは教育現場の問題です。この問題をさらに調べていくと、福祉事務所だけでなく、学校と教育委員会にも、大きな問題があることがわかってきました。

「名古屋市立小学校及び中学校の管理運営に関する規則」の第十条には「校長は、学校において教科書以外の図書その他の教材を使用しようとする場合にあっては、有益適切と認めたものを選定し、保護者の経済的負担について特に配慮しなければならない。」とあります。

学校現場では、どういうふうに配慮していたのか。

紹介したような副教材の類は、以前は、業者に余分に納入させ、経済的にたいへんな家庭に無償で提供させる、ということが行なわれていたようです。学校現場にも教材納入業者にも、まだゆとりがあった時代の話です。現在でも、悪しき慣行として一部の学校では、続けられているようです。

一方で、業者にも余裕がなくなり、この慣行をやめる学校が多数になりました。ところがこんどは、たかが数千円と考えたのか、いつの頃からか、要保護の世帯から、本来負担させてはならない費用を徴収していたのです。

そこで教育長にうかがいます。学校では要保護の児童生徒の存在を把握していながら、副教材費の支給がほとんどないことを、おかしいとは思わなかったのですか? 負担徴収の実態と、保護制度について現場をどう指導してきたのか? お答えください。

問題は、どう改善するかです。福祉事務所と学校・教育委員会が必要な情報を共有すれば、保護者や現場の教職員に、いちいち申請や証明の手間をかけずに、該当者にもれなく支給できるはずです。

今後の改善方針について、教育と福祉の連携をどう進めていくのか。

実態調査し、制度の周知・指導を行い確実に支給する(教育長)

【教育長】
補助教材は、児童、生徒全員に行き渡り学習に支障はございませんでしたが、今回、申請に基づき支給きれている「教材代」について、学校に対し制度が十分に周知されていなかったことにより十分活用されず、被保護世帯の多くの方々にご負担をおかけしたこと、また、一部ですが、業者のサービスにより被保護世帯の児童生徒に対し、補助教材が無料で提供されているという実態がありましたことは、まことに申し訳なく思っております。

教育委員会としては、早急に補助教材の取り扱いの実態を調査し、「学校事務の手引き」などにより生活保護制度について全教職員に周知をはかるとともに、補助教材の支給にあたっては、納入業者の負担をなくすよう指導してまいりたい。

今後は、「教材代」が確実に支給され、児童生徒が適正な方法で補助教材を入手できるよう、新たな仕組みづくりを健康福祉局と連携して取り組んでまいりたい。

過去にさかのぼって支給すべきだ(再質問)

【山口議員】
生活保護の副教材費問題にしぼって再質問します。

今年度、保護費で支給されるはずの金額は約690万円。このほとんどが保護世帯や納入業者の負担になっていました。お二人からは「申し訳ない」との答弁でしたが、実態の解明はこれからです。

健康福祉局長からは、申請を待つのではなく「職権で支給できる方策を検討する」と答えていただいた。ぜひその方向で、速やかに改善していただきたい。

しかし、いつからこのような事態になっていたのか、過去の未支給分については、明確な答弁がありません。

そこで市長に伺います。

まず市長、これは、不適正な会計処理そのものではありませんか?

義務教育と生活保護という行政の基本中の基本で起こった問題です。あなたは責任を感じませんか?

名古屋は元気だ、と言うだけで、貧困と格差の広がりへの認識がないあなたの政治姿勢が、このような問題を招いたのではありませんか?

教育長から転身した市長として、生活保護費の支給実態と、学校での教材費の徴収実態はどうなっていたのか、あなたの任期中でけっこうです、過去に遡って調査し、この問題の全容を明らかにしていただきたい。

以上、答弁を求めます。

原点に欠けた対応で申し訳ない(市長)

【市長】
すべての子供たちに教育の機会均等を図り、就学の機会を確保するため、教育扶助などの経済的な支援を行うことは、教育を受ける権利を保証するために大変重要なことであり、この大変重要なことがキチンとされなかったことは本当に申し訳なかった。

今回、生活保護法に基づく教育扶助のうち教材代の実態把握・申請指導等が不十分であったことにより、一部の被保護者の方に生活費の中でやりくりをするという負担が生じる結果となった。これは、子ども一人ひとりの生活の様子や背景を十分に理解した、子供たちに寄り添った対応ができなかったということで、誠に申し訳なく思っています。

今後、実態の迅速な解明、児童・生徒の実態に思いをかけた教育委員会、健康福祉局の一層の連携強化により、教育の機会均等の確保に努めてまいります。なにより、一人ひとりを大事にするという原点が欠けたことに申し訳ないと思っています。

もっと市民のくらしぶりをよく見よ(意見)

【山口議員】
このような問題を何年も放置しておいたあなたには、子どもたちに「規範意識」を語る資格はありません。

市長、あなたには行政の長として、いちばん気にかけるべき子どもたちへの教育的、経済的な配慮が欠けていたと言わざるをえません。

もっと市民のくらしぶりをよく見て、福祉や教育の現場にも足を運んでください。行政に福祉の心を取り戻すよう強く要望します。

ボートピア環境整備協力費について

1つの学区に毎年2億円近い交付金を配分

【山口議員】
住民の根強い反対の声を押し切り、場外舟券売場「ボートピア名古屋」が2006年8月に港区にオープンしました。その売上げの1%が環境整備協力費として、競艇施行者幹事の蒲郡市から名古屋市に交付されます。その額は今年度が1億1千万円、新年度は2億円という巨額です。

この環境整備協力費について、本市はその使途を「当面の間、港区内の環境整備に関する事業を対象にする」として「港周辺において特別に実施する事業」に事業範囲を特定しています。

この事業を検討・実施するために、西築地学区連絡協議会より推薦された地元住民代表6人と区役所職員3人などで構成する「港まちづくり協議会」を立ち上げました。港周辺といいますが事実上、西築地学区が事業の対象範囲です。

今年度は、市民経済局からこの協議会に7400万円、また港区内で実施する既存事業にと緑政土木局に4千万円の予算がつきました。 新年度は、土木局には2千万円ですが、協議会には2.4倍の1億8千万円という配分です。

そこでまず、この環境整備協力費の性格についてうかがいます。

神戸市にもボートピアがありますが、地元への還元割合は、交付金のほんの一部です。他都市では自治体の一般財源として、幅広く活用されているのが普通です。

この環境整備協力費は、使途が限定された特定財源ではなく一般財源ですね。まず確認します。

次にこの支出についてです。いくらを地元に使うのか、また各局にどう配分するかは、誰がどう決めるのですか? 一つの学区に毎年、1億から2億もの公金が支出されるのは、あまりに異常とは思いませんか? お答えください。

港まちづくり協議会に補助金(副市長)

【因田副市長】
ボートピア名古屋の環境整備協力費は一般財源で、ボートピアが港区に設置されたことに伴い、施行者から市に対して交付される。

平成16年に採択された「ボートピアの設置を地域の活性化につなげたい」という請願の趣旨を実現させるため、環境整備協力費を財源に、「港まちづくり協議会」に補助金を交付し、協議会が港まちのにぎわいづくり、地域づくりを目指した事業を実施している。その他、港区内の道路の整備など、市が直接執行する事業の財源になっており、その配分は、環境整備協力費が地域の活性化につながるよう、総合的に判断して行っている。

環境整備協力費の使途をめぐって疑惑が

【山口議員】
いまこの環境整備協力費をめぐって疑惑が生じています。

7400万円のうち760万円が、安全パトロールの委託費として、あるNPO法人に支出されました。ボートピアを積極的に誘致した方々が中心になり立ち上げたNPOです。協議会の住民代表6人中、5人がこの法人の社員でした。

ところがこのNPOが、パトロール業務を別の法人に丸投げ(再委託)し、しかもパトロールは契約どおりやらずに、すべて行なったかのような報告書を作成し、委託費を不正に受け取っていたのです。

不正に支出された公金はいくらなのか、この問題の原因と責任をどう考えているのか、明らかにしてください。

次に今後の対策についてです。港まちづくり協議会を、公金を扱うのにふさわしい組織にするために、少なくとも、まず利害関係者を構成員から外すことです。そのうえでたとえば「まちづくり百人委員会」など、住民がもっと直接参加できるように改めるべきと考えますが、いかがですか。

そして根本的には、ギャンブルに依存した「まちづくり」という発想を改めることです。環境整備協力費のほとんどを地元学区に注いで、毎年〃補助金ですから使い切りなさい、というやり方は、地元にとってもプラスになりません。

しかも競艇の売上げは、全国的には減り続けており、長い目でみれば当てにできない財源です。まちの活性化がボートピア誘致の名目でしたが、地元をにぎわしているのは、公金をめぐるスキャンダルだけではありませんか。ボートピアに依存しないまちづくりこそ進めるべきです。

迷惑施設に対応する環境整備は必要に応じて行いながら、協議会では、お金をどう使うかよりも、まちづくりを進める長期的な計画をまずつくるべきです。「港まちづくり」をどのように支援していくのか、うかがいます。

必要な助言・指導をしたい(副市長)

【因田副市長】
港まちづくり協議会が実施する事業の内、「安心・安全のためのパトロール」は、地元のNPOに業務を委託しておりましたが、契約の不履行や違反が判明したことから、協議会が契約を解除するとともに、現在、委託代金の返還金額を確定するための民事調停の手続きを進めていると聞く。このパトロール業務は、協議会が地元のNPOと契約をし、委託代金が支払われたものだが、協議会の事業が本市の補助金を受けて実施されているものであり、これまで以上に事業の適正な執行管理に努めるよう指導している。

協議会におきましては、こうした現状を踏まえ、委員の構成や事務局体制の強化など、鋭意検討を進めているところと聞く。

市としても、委員の構成や委員会の運営方法、事務局の体制などについて、必要な助言・指導をしてまいります。

協議会は、今後の事業のあり方について住民意識調査を実施し、長期的な事業計画を検討していく予定と聞く。

市としても、協議会の事業が港まちのにぎわいづくり、地域づくりにつながるよう、計画づくりにあたって必要な助言など、支援をしてまいりたい。

ヘルパーへの交通費支援について

低い報酬で交通費が重い負担に

【山口議員】
敬老パスや福祉パスは、高齢者や障害者の社会参加を進める上で大きな役割を果たしています。外出支援のパスですが、障害や介護の程度によっては外出が困難な方も増えており、社会とのつながりはヘルパーだけ、という方も多いのです。

ところがそのヘルパーの報酬が、自立支援法や介護保険の改悪などを契機に、業務の継続すら困難なほどに引き下げられ、ヘルパー事業から撤退する事業所も少なくありません。

そのわずかな報酬でまかなうことになっている交通費が、また負担なのです。例えば1時間の身体介護の報酬は4240円、市バスで往復すると400円、報酬の約1割が消えます。1時間の家事援助の報酬は1590円、市バスで往復すると四分の一がなくなります。

自動車の訪問では、取り締まりが厳しくなり「コインパーキングを利用したが誰がその料金を払うかでもめた」とか「事業所の撤退で新たに引き受けた訪問先は、自転車では行けないほど遠かった」というケースも増えています。

もちろん国に対して、十分な水準の報酬単価を求めるのが基本です。そのことを踏まえたうえで、本市独自でヘルパーへの交通費を支援すべきです。

名古屋市はこれまでも、障害者の負担を独自に軽減し、移動支援では介助者の交通費も支援してきました。介護のための駐車場も議場で話題になりました。もう一歩すすめて、「ヘルパー支援一日乗車券」といったものが考えられないでしょうか。

いま敬老パスの交付率は7割を切りました。パスの交付を受けない人がすべて外出困難者とは思いませんが、外出の支援と同様に、高齢者や障害者への訪問を支援するのです。

ヘルパーへの交通費支援制度をつくりましょう。健康福祉局長の答弁を求めます。

抜本的な報酬単価の見直しを国に要望(局長)

【健康福祉局長】
ホームヘルパーの訪問費用は、本来は事業所が負担すべき経費です。ホームヘルプサービスの報酬は、介護報酬や自立支援給付のなかで勘案すべきものと認識しております。

市としては、事業所が継続的に安定的な運営が図られるよう抜本的な報酬単価の見直しを、引き続き国に要望してまいりたい。

 

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