2020年11月議会

江上博之議員の議案外質問:②木造化よりも現天守の長寿命化、石垣や遺構の保全を(2020年11月30日 11月定例会)

名古屋城整備事業における、開発優先でなく文化財保護重視の取組について  江上博之議員

文化財保護の観点から「水道」遺構調査をなぜ行わな
いのか

【江上議員】重要文化財展示施設の外構工事での江戸時代の遺構を傷つけ、工事を進めた「き損事件」は、名古屋城整備が開発優先で、文化財保護の観点が抜け落ちていることを示しました。幸い、修復が可能であることが示され一安心しています。しかし、天守閣木造復元という開発を優先し、文化財保護がないがしろにされている例がまた出ています。10月22日に行われた特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議で明らかになりました。
 1、名古屋城天守閣解体のために、天守閣北側に、解体工事用の構台設置のために、土台部分の調査を行うと提案しています。その場所には、江戸時代の文献「金城温古録」で、「水道」と記述された場所があることが明らかになっています。文化財保護の観点からこの「水道」遺構の調査を第一優先に行うべきです。ところが、構台設置のために遺構に影響があるかどうかの調査のみで「水道」遺構調査は行われません。文化財保護の観点から「水道」遺構調査をなぜ行わないのか。理由を説明してください。

現天守解体の際、遺構への影響が無い工法を検討することが文化財保護につながる(局長)
【観光文化交流局長】天守台北側の構台設置地点では、地下遺構の状況を把握するための発掘調査を実施する。今回の調査は、現天守閣解体の現状変更申請に対する文化庁からの指摘事項に対応するための調査であり、解体に際しては、仮設構台を設置する地点の地下遺構の状況を把握したうえで、遺構に影響の無い工法等を選択し、遺構の保存を確実に図ることが求められている。発掘調査は、一度行うと二度と元に戻らないため、目的に応じて必要最小限の範囲で行うことが重要です。
 「金城温古録」に記載された「水道」遺構も、遺構の全体像を明らかにする目的ではなく、遺構の状況を把握するために、最小限の範囲で調査を行う。その結果を踏まえて、工事に際して遺構に影響のない工法等を検討することが、文化財保護につながる。
 調査は有識者会議に諮ったうえで、いただいた意見を踏まえて計画立案し、その実施のための現状変更許可を文化庁に申請している。

戦後復興の象徴である現天守閣の再建過程を市民にしっかり示すことが先では
【江上議員】その検討会議で、鉄骨鉄筋コンクリート天守再建にあたり、いかに、当時の建設者が再建に苦労したか。石垣保全にも苦労したかを示す写真が明らかにされました。このような写真は最近見つかったそうですが、少なくとも市民には知らされていません。
 そもそも、名古屋市は、1959年現天守再建以来、再建過程を市民に知らせてきませんでした。時々の展示をするのみです。そして、今回木造復元にあたり、その経過を「記録」として残すというのみです。戦後復興の象徴である現天守閣がいかに建設されたのか、現天守再建にあたっての苦労話も含めてしっかりと市民に示すことが先決です。どのように示すかお示しください。

資料等の収集・整理、HPでの公表、現天守閣の部材の展示やグッズ化なども検討中(局長)
【局長】10月22日の第34回特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議で、木造天守の基礎構造の考え方を説明する中で、天守台石垣の戦後の修理や現天守閣再建時の状祝も説明した。
 鉄骨鉄筋コンクリートで再建された現天守閣は、焼失前の木造天守に比べて重量が大きいため、天守台石垣に荷重をかけない吊り構造を採用し、すべての荷重を天守台内部に構築したケーソンで支持するなど、非常に高度で困難な工事が行なわれており、当時の最新の建築技術により、外観は史実にほぼ忠実に再現し、内部は近代的な博物館機能を有する、戦後復興の象徴として再建された。再建に向けた機運の高まりなど当時の人々の熱意を今に伝える建造物でもある。
 名古屋城天守閣木造復元事業を進めるにあたり、名古屋城の400年を超える歴史、その中での先人の方々の苦労や努力、如何にして市民の精神的基柱であり、誇りであり続けてきたか、伝え、知っていただくことで、木造復元事業への理解をより深めていただける。
 平成29年度より毎年開催している市民向け説明会を、事業の経緯や進捗状況の説明だけでなく、少しでも名古屋城について学びや発見が得られる機会となるよう、学芸員等の協力を得て、工夫したい。
 木造天守の復元には、記録の保存として現天守閣の図面や写真のほか、解体する外装材や内装材、構造躯体の一部の保存、現天守閣再建までの経緯、当時の人々の思いや苦労を伝える資料等の収集・整理、また、人々の記憶の継承として、資料等のデジタル化によるウェブサイトでの公表、現天守閣の部材の展示やグッズ化なども検討している。有識者、文化庁の意見を伺いながら、より具体的な方策、取り組みの検討をすすめ、文化庁から提出を求められている木造復元の具体的計画の中に盛り込んでいきたい。

「老朽化対策で現天守は相当年数維持できる」と文化庁。「寿命40年」の記述は撤回すべき
【江上議員】現天守は外観復元だけでも文化財としての価値が大変高いものです。文化庁は今年6月、「鉄筋コンクリート造天守等の老朽化への対応について(取りまとめ)」を発表しました。そこでは、老朽化した鉄骨鉄筋コンクリート天守の50年耐用年数について、「財務省令におけるRC建物の減価償却上の年限」であって、「老朽化対策が適切に行われれば、相当年数長寿命化を実現することは不可能ではない」としています。再アルカリ化など延命策によって耐震補強をおこなえば相当年数維持できることが可能と言っているのです。
 名古屋市は、2016年名古屋城天守閣木造復元にあたってアンケートを行い、その際「現天守閣の耐震改修工事」について、「概ね40年の寿命」と記述しました。今回の文化庁の文書には、耐震補強後40年の寿命などという記述はありません。専門家が協議した文書にもない記述は撤回すべきです。

「2万人アンケート」の記述は、耐震改修実施の有無にかかわらず天守の現状から判断した
【局長】平成28年度の「名古屋城天守閣の整備2万人アンケート」では、コンクリートの劣化や耐震性能が現行基準に合わないなどの課題があり、現天守閣を耐震改修してもコンクリートが概ね40年の寿命という調査結果が出ていることを説明し、どうしたらよいかをきいた。コンクリートの寿命を概ね40年としたのは、平成22年度の耐震診断とともに実施しました構造体劣化調査の結果をもとにしたもので、耐震改修の実施の有無に関わらず、天守閣のコンクリートの中性化の進行度合いとコンクリート内部の鉄筋の腐食(錆)の状況から判断している。

調査研究センターは文化財保護の立場で全力を尽くしているとの理解でよいか(再質問)
【江上議員】開発優先でなく文化財保護重視を求めて質問しようとしてまいりましたところ、27日の本会議で、また新たな問題が出ました。詳しくは経済水道委員会で所管事務調査が行われると思いますので、そこでしっかり議論していきたいと思います。
 そこで質問いたします。調査研究センターは、文化財保護の立場で所長以下全力を尽くしている。また、現在の問題にも取り組んでいるという理解でよろしいですね。

職員一丸となって史跡の保存・活用を進めている(局長)
【局長】特別史跡名古屋城跡では、今年3月の遺構き損事故の再発防止対策として、史跡全体の適切かつ厳格な保存を最優先にし、その大前提に立って、遺構等に影響を及ぼすことのないよう、慎重に整備・活用を図っていくことを基本原則とした。
 調査研究センターも、その原則の下、名古屋城の文化財について調査研究を推進し、史跡の保存・活用を進めている。その役割を、所長以下、調査研究センター一丸となって果たせるよう現在も取り組んでいますが、廣澤副市長から調査の指示を受けており、調査結果も踏まて、更に学芸員の育成・能力の向上を図り、その能力を発揮できるような環境づくりを進めたい。

市がやるべきなのは現天守の長寿命化・耐震補強。石垣、遺構の保全に全力尽くせ(要望)
【江上議員】現天守再建は非常に高度で困難な工事であり、当時の最新の建築技術により、外観は史実にほぼ忠実に再現し、内部は近代的な博物館機能を有する戦後復興の象徴として再建されました。また再建に向けた気運のたかまりなど、当時の人々の熱意を今に伝える建造物の役割もありますと、回答がありました。これほどの文化財としての価値のある建造物を名古屋市は名古屋市民にきちんと知らせてまいりませんでした。再建時、伊勢湾台風の被災で名古屋城どころではなかった、というのが市民です。
 それだけに文化財としての価値をしっかり市民に知らせ、名古屋の誇りであることを示すことこそ、名古屋市のやるべきことではありませんか。天守木造化でなく、現天守を現在の技術を駆使し、また維持管理にも努めて長寿命化、耐震補強することです。何より、石材片やモルタルが落ちてきています。当然、石垣そのものが大丈夫か、ボロボロになっていないか、石垣保全こそ喫緊の課題ではありませんか。石垣保全や遺構の保存に全力を尽くすことを求めておきます。

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